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インスタントコーヒーをもう一杯

 

 
コーヒーのぬくもりが、冷えた指先をゆっくり温めてくれている。
ガラス越しに駐車スペースが眺めらえる、ファーストフード店の一角。
無機質な白いテーブルに置かれた、どの店でも共通のモーニングセットを目の前に、
僕はぼんやりと外の景色を眺めていた。
ここしばらく、週末ごとに天気が荒れた。
この前の週末は大型台風が列島を直撃し、テレビは数日にわたって騒がしかった。
画面に平穏が訪れると、唐突に秋がやってきた。
そして、いま手にしたコーヒーを少しずつ飲みながら眺める空は、
久しぶりに見るような青一色となり、その彼方から降り注ぐ太陽の光は、
僕のハンターカブの赤色を、よりいっそう引き立ててくれていた。
いいツーリング日和だ。
ときおり腕時計を眺めながら、モーニングを食べ終えた。
さあ、行こう。そろそろ待っているかもしれない。
約束は朝8時、道の駅かなん。
今年の6月に知り合った彼とは、とても気が合いそうないい予感がしていた。
いつか、またご一緒しましょう・・・・
SNSで知り合った者同士のよくある会話。
しかし、そんな会話の先に、本当に一緒に行く人は何割いるのだろう・・・
だが、彼とSNSでやり取りを続けるうちに、その予感は確実なものに変わっていった。
人は所詮、他人同士。
お互いに違ったことを考え、違うことを行い、違うものを好む。
それは長年連れ添った夫婦でも、愛情を注いで育ててきた子供でも同じこと。
そんなことは当たり前のことなのだが、
これから会う彼には、なにか自分に通じるものを感じられた。
彼も何かを感じてくれたらしい。
近場にツーリングへ行きましょう!
潮岬へ行きましょう!
カブで行きましょう!
矢継ぎ早に来た誘いは、僕をとてもわくわくさせるものだった。
もちろん、すぐに話はまとまった。
そして、コーヒーを飲み終えた僕は、こうして待ち合わせの場所へ向かっている。
事前に詳しい打ち合わせなど、ほとんどしていなかった。
しかし、待ち合わせ場所に停められた彼のカブ、
その荷台に積まれた大きなキャリアボックスには、
今回のキャンプで必要となる、あらゆる道具が満載されていることは理解できた。
僕もひととおり自分好みの道具は揃えているし、そのほとんどをいま持参している。
それらはきっと、お互いに自分なりの旅へのこだわりが詰まった道具なのだ。
そんなこだわりについて話しても、きっと楽しい夜になりそうだ。
道の駅では簡単に道順などを話して、ほどなくして出発となった。
彼がヘルメットをかぶった。
ショーエイ J-FORCE Ⅲ ホワイト イエローミラーのシールド
サイズは違うだろうが、メーカー、モデル、カラー、オプションのシールドの色まで・・
その何もかももが僕のヘルメットと同じだった。
その理由は・・・・聞く必要もなかった。
何故ならば、それは僕がそれを選んだ理由と同じだと、瞬時に理解ができたからだった。
そして、今回の旅はとても素晴らしいものになるだろうと確信した。
道中は主に彼が先を走った。
彼の方が道に詳しいうえに、僕の設計の古いハンターより、彼の最新のカブの方が、
パワーもスピードも上だった。
 

 
1980年に設計されたCT110。
ハンターカブは通称だが、やはり設計の古いバイクはそれなりに遅かった。
まあ、それもこれもすべて承知の上で買い、そして乗っている。
朝のまばゆい光の中、エンジンの力を振り絞って走る。
単気筒のピストンがこれでもかというほどの速さで上下に振幅を続ける。
それでも遅いハンターで進む道は、徐々に交通量も減っていき、
すぐそこに秋が感じられる、山深く心地の良い道へと変化していった。
ハンターは上りが苦手だったが、たいらな道なら一般道を走るには十分なスピードが出た。
車を追い越すこともなく、ゆったりとその道に合ったペースで進むがゆえに、
他の車に追いつかれることも、また追いつくこともなく、
我々の2台のカブは無人の荒野を進むかのように、
吉野から十津川へつながる街道と、そのあたりの景色を我々だけで独占することができた。
太陽の光は暖かかったが、標高が上がると共に、
ほとんど停止することなく走り続ける我々に吹きつける風は、
容赦なく二人の体温を奪っていった。
途中で立ち寄ったガソリンスタンド。
支払いのために財布を開けても、小刻みに震える指では小銭がうまくつまめなかった。
どこかで温泉に入ろう。
どちらともなく、言いだした。
以前に行った温泉ツーリングでも立ち寄った、十津川温泉 滝の湯。
道の駅のすぐ近くにあるこの温泉は、とても風情がある。
ここの売りのひとつ、流れ落ちる滝のすぐ脇にある露天風呂は、
内風呂から外に出て、木々に囲まれた屋外の階段を幾段も降りていく。
 

 
しかし、冷え切った体の我々にとっては、なかなかの荒行。
さむい、さむい、と声を出しながら風呂へ向かった
 

 
つづく
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