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標高1000mの風 その5

ゲレンデの外れに建っているペンションのすぐ脇から、道路が始まる。
上りは、もともと小さな集落を通り抜けてゆく旧道を通った。
そして、このハチ北スキー場と国道を結ぶために、新たにつくられた道を下っていく。
こちらは道幅も広くつくられ、一見走りやすそうだった。
しかし、アスファルトがタイヤチェーンによって削り取られた、小さな砂のような粒子が、路面を覆っていた。
フロントタイヤが跳ね上げる削りカスが、フェンダーやシリンダーのフィンに当たり、小さな金属音を出していた。
路面に散らばるその削りカスは、アスファルトと全く同じ色で、走りながら見分けることは難しかった。
路面に注意をしながら、山を下り続けた。
空気が徐々に重くなっていった。
吸い込む空気の抵抗、体に当たる圧力が高くなったように感じた。
そして、一番おおきく変わったのが温度だった。
暑い。無性に暑い。
つい先ほどまで軽く、乾燥した快適な空気だったのが、山を下っていくに従い、その不快さは増していった。
ふたたび、国道9号を走り続けた。
途中、道沿いに温泉地がいくつかあった。
すでに汗にまみれた体を洗い流してしていきたいところだったが、先を急ぐことにした。
鳥取砂丘の東で日本海にでた。浦富海水浴場の脇に建つ、1軒のレストランで海鮮丼にありついた。
 

 
地元の主婦が、夏場だけアルバイトで働いている風の店員が
「もうラストですが」
と、少々不愛想にオーダーを聞きに来た。
仕方がない。すでに3時前だった。
それほど待つこともなく、海鮮丼が出てきた。
しっかりとボリュームのあるどんぶりに、これもボリュームのあるネタが敷き詰められたおいしそうな丼だった。
食べ終わると、充分に満腹感で満たされた。
しばらく休んでから、その先のコースを確認した。
あと、100km。
そうすれば今日の野営地にたどり着く。
ここから先も一般道だけだから、おそらく2時間と少しはかかるのだろう。
ヘルメットをかぶり、日に焼けて褪色してしまった、元々黒色のグローブを両手にはめた。
オートバイにまたがった。走り出すと浜風が体の右斜め前方から吹き付けた。
本来なら風が当たれば、涼しく感じられるもの。
ところが、風が熱い。体温よりも熱い。こんな風なら当たらぬ方が、まだマシなのかもしれない。
さきほど立ち寄ったハチ北スキー場が、なんだかもう懐かしく感じられた。
しばらく、右手に美しい海を眺めながら、海岸線を走った。
 

 
久しぶりに眺めた日本海は、暑くて不快指数の高い空気と裏腹に、静かでとても青かった。
山陰道に入った。まだ完成していない、この自動車専用道路は、無料で走ることができた。
海岸線からは少し離れて、海を眺めることはできない。
ほぼ高速という道のりを、ほとんど止まることなく走り続けることができた。
太陽は進行方向を中心に、山陰道のカーヴの方向に合わせて、正面から右や左にその向きを変えた。
夕刻がせまり、角度が浅くなった太陽が視線に入り、暑さがなおさら辛く感じる。
琴浦で山陰道を下り、南へ針路を変えれば目的地だ。
しかし、今、オートバイに備付のサイドやリアのケースに食材は入っていない。
時間のロスにはなるが、10kmほど余分に走って、やや大きめのスーパーに入った。
リアケースには炭と折りたためるバーベキューグリルが積まれている。
できるだけおいしそうな焼肉用の材料を選んでいった。
それと袋詰めされたぶ厚い氷の板も一緒に買い、折りたたみのクーラーボックスに入れた。
これで夕食時まで、今買い込んだ食材は冷たく冷やされているだろう。
スーパーを出るころ、太陽はさらにその居場所を低く構え、あたりをオレンジに染め出した。
オートバイにまたがると、同じ道をもう一度逆方向にトレースしていく。
琴浦東というインターチェンジで山陰道を降りた。県道44号へ向かった。
海から南西方向へ向かうまっすぐな道路が、高度を徐々に上げながら、大きなシルエットになった山を目指して伸びている。
 

 
それほど待つことも無く、太陽は大きな山のシルエットに隠れていくことだろう。
それぞれがわずかずつに濃さの違うグレーが、稜線の不規則な曲線を描きながら山の形を描いていた。
道は大きな山の周回道路へ入った。
山の中腹を細かくうねりながら囲む道を、そのまま大きく1/4周し野営地に到着した。
鏡ケ成キャンプ場
冬、たくさんの雪が積もってスキー場となる、立ち木のないなだらかな山の斜面と、それを真正面に望むホテルが建っている。
そこから道路1本隔てた場所にあるこのキャンピングエリアは、高原の森に囲まれていた。
テントサイトのすぐわきにある、オートバイ専用エリアにバイクを停めた。
サイドスタンドをかかとでけりだし、オートバイの全重量をそのスタンドに預けた。
右足を大きくまわし、オートバイから降り立つとテントを立てるよりも、シャワーを浴びるよりも、なによりも先に、クーラーボックスに詰まった缶ビールを1本、とてつもない勢いで飲み干した。
のどの刺さるように冷えたビールは驚くほどにうまかった。
 
 
 
つづく
 
 
 
 
 
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コメント

No title

こんばんわ^
echoさんの文章自分の好きな北方謙三の若い頃の書き出しに似てますね

No title

そんな、そんな、笑
ただ、ちょっと気取って記録しているだけです。
楽しい記憶を記録したい、と思って書いてます。

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