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標高1000mの風 その4

エイプハンガータイプのハンドルバーが特徴の、ローライダーに乗る彼が声を掛けた。
「ずいぶんと空気が乾いてすっきりしてきましたね」
「ほんとうだ。気が付かなかったですね。温度も下がって涼しく感じますね」
目まぐるしく変わっていくオートバイの周りを囲む風景ばかりに気を取られ、
標高が上がったためにずいぶんと気温が下がったことに気づかないでいた。
言われて初めて、頭をしっかり覆っていたジェットタイプのヘルメットを脱ぎ去り、
深呼吸をし、深い山の空気を、思いきり吸い込んだ。
湿度も低く乾いた空気は、喉の粘膜を通り、肺にゆっくりとためられた。
空気自体がなんとなく軽く感じた。
道はこの先、どこまでつながっているのかは分からない。
果たして、まだまだ先までつづいているのだろうか。
それとも、あと少しでプツンととぎれてしまうのだろうか。
「どうしましょうか、まだ行きますか」
「もっと行きましょう」
彼はすぐさまに答えた。
ハーレー・ダビッドソンに乗る以前、彼はヤマハのオフロードに10年以上乗り続けていた。
未舗装の山道を探しては、一人でどこもまでも走っていくことがとても楽しかったと言っていた。
彼は決してハーレー・ダビッドソン愛好家ではなく、一人のオートバイ好きの男だった。
走れるのなら、走れるところまで、走ろう。
彼はそう考えているのだろう。そして、僕も普段、そう考える。
再び、僕が先頭になって走り出した。
道は徐々に斜度が厳しくなり、さらに狭くなっていく。
1年の何分の1かは雪の下の眠っているアスファルトは、それほど手入れをされているわけもなく、
あちこちがはがれていたり、くぼみができていたりしている。
舗装路とは名ばかり、未舗装路に限りなく近い。
道はスキーコースを外れ、高い木々に覆われた森の中へ続いている。
あたりには枝や葉が落ちてたまり、オートバイを走らせるための環境はさらに悪くなる一方だった。
それでも道が上り続けていたら、僕らはまだ迷わずに先へ進んでいただろう。
ところが、あるところから道が下りにかわり、カーヴを曲がるたびに山裾へ降りていくことに気づいた。
また、オートバイを停車させて相談した。
「降りてしまうけど、どうしますか」
「引き返して、枝道を進んでみましょう」
道がさらに狭まり、Uターンができなくなる前に、僕らは何とか方向を変えることができた。
今、通ってきた道をしばらく引き返していくと、アスファルトではなく、砂利交じりのコンクリートの枝道にさしかかった。
しかし、その斜度はさらに醜いほどに厳しく、ヒルクライムのような斜面となっていた。
はたして車重のあるこのオートバイを支えるほど、タイヤがグリップできるのだろうか、と疑問が浮かんでくるほどだった。
おそらく400kg近い車体がグリップを失って後ろへ滑り出したら、オートバイの姿勢維持のためにコントロールすることはまずできない。
「さすがに厳しそうですね」
「そうですね、止めましょう」
二人で苦笑しながら、ちょっとした冒険は空想で体験するだけにとどめ、元来た道をたどっていくことにした。
ここまで来る途中、もう一つ分かれ道があった。
その道も冬場にスキーに来た時に見覚えのある地形だった。
斜面の角度、幅、横に迫る崖や木の生え方。その地点を構成するあらゆる要素が記憶の片隅に刻まれていた。
この地点の周囲の光景を真っ白な雪で覆ったとしたら、きっと記憶の通りの場所になるのだろう。
その場所まで戻ると、枝分かれしたもう一方の道へ進んでいった。
少し走ると、自分の記憶が正しかったことがすぐにわかった。
 

 
わずかに斜度がついたゆったりと広い芝に覆われたこの場所。
確かにここは記憶の中にあるゲレンデそのものだった。
反対側に目を向けた。
 

 
薄い空色に塗られた4階建ての建物は、ここへ来るときによく利用したペンションだった。
こんな風に、ゲレンデの真ん中に道が通っていたこと、そして雪の下は一面が芝に覆われていたこと、
記憶の中のペンションの姿は、夏場はこんな光景に見えるということ、すべてが新鮮で輝いて見えた。
少しの寄り道のつもりだったが、かなりの時間をここで過ごすことになっていた。
もうランチタイムは十分に過ぎていた。ようやく空腹感を感じ出しながら、目的の昼食の店を目指すことにした。
 
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コメント

No title

こんばんわ^
ハーレの1番苦手な砂利道ですね
止める所も気をつかいますね

No title

コメント、ありがとうございます。
さすがにウルトラでヒルクライムに挑戦する勇気はありませんでした。
でも、楽しい思い出になりました。

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