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標高1000mの風 その3

国道9号で走り続けると和田山、八鹿を抜ける。
どれもこれまでに何度も通り過ぎた街々だった。
以前はよく冬にこの道を通ってスキーに行った。
だから何度も通ったとはいえ、ミラーシールド越しに飛び込んでくる景色は今とは全く違っていた。
繰り返し見た濡れた路面、ところどころに残る雪のかたまり、重く垂れこめた厚い雲、いずれもが異なっていた。
この道にどちらの景色が似合うのだろうか、
そんなことを考えてみたが、この街に住む人にとっては、その道は生活の一部であり、
似合うとかそういった言葉は、よそ者の僕らがいうことだと気付いて、考えることをやめた。
しかし、関宮を過ぎると、もうその先はスキー場と、それに関係する看板しか見えてこなくなる。
冬は道路が空いていれば、走行にはかなり注意が必要だが、
滅多に空くことはなく、常にゆるゆると渋滞しながら走るループ橋を通過しトンネルに入った。
長く薄暗いトンネルを出ると、そこにはハチ北スキー場がある。
本来は八伏高原という地名だが、そこにはたくさんのスキー場が連なり、
なかでもその規模とコースアレンジ、難易度で関西では知名度が高いのがハチ北スキー場だ。
走りながらふと思いついた。左手を出して停車のサインを送り、片側1車線の道路の路肩に並んで止まった。
「雪のないスキー場を走りませんか。楽しいかもしれません」
「それは楽しそうですね、いいですよ」
結論はすぐに出た。
見覚えのある看板を目印に左折すると、八伏高原が目の前に広がった。
一旦曲がればそこには一本道しかなく、ひたすらカーヴを重ねながら標高をあげていく。
冬から春にかけて、スタッドレスタイヤを履かない都会のスキーヤーが、
鋭いスパイクのついたタイヤチェーンを使って削り続けた道路の路面はかなり荒れていた。
毎年、街の税金を使って修復を重ねていっても追い付かないのだろう。
前輪を通過させる路面に、できるだけ注意を払いながら先へ進んだ。
道幅はかなり狭くなり、結構な田舎道へと変わっていった。
古い民宿のような建物がところどころに見えてきた。
なんとなく、さびれた温泉町の外れに来てしまったような錯覚がした。
「あ、間違えた。」ひとりでつぶやいた。
これまでハチ北へ来るときは、もう少し国道を北へ進んだところで左へ曲がっていた。
もう何年もこの場所を訪れていないことと、雪に包まれた景色との違いが僕に勘違いをさせたようだ。
「まあ、いいか。この道も同じくハチ北には続いている」もう一度つぶやきながら、何事もなかったように進んだ。
一度狭くなった道も、その先は道幅がややひろがり、道沿いに点在するスキー客のための駐車場がいくつか現れた。
道路脇にある民宿は、少し大きな、でもやはり古い旅館となり、レンタルスキーの店が何軒か連なっていた。
シーズン中はそこで閉鎖されているはずの道も、雪のない今、乾いたグレーのアスファルトはまだ先まで続いている。
そして僕らの通行を妨げるものも、通行を禁止するサインも出ていない。
僕らは躊躇することなく、その道を進み続けた。
雪に覆われた季節はここは道路ではない。しかし、スキーコースでもない。
スキーコースの終端から、スキーを履いたまま、自分の宿まで滑って降りてくるスキー客のための道だった。
リフトがすぐ近くに現れた。本来行きたかった方向にはペアリフトがあったはずだが、こちらはシングルが中心だ。
シーズンオフであり、あちらこちらに錆びが目立つシングルリフトはいかにも田舎のスキー場の風情が漂う。
おそらくこのスキー場のなかでも一番古くに作られたリフトなのだろう。
道は車一台分の幅に狭まったが、まだ上まで続いている。
この先はいったいどうなっているのだろうか。
道が突然途切れて、Uターンできないかもしれないという不安よりも、
まだ知らないこの道の先を知りたいという探求心の方がはるかに強かった。
進み続けると林道コースのさらに上、幅広で斜度も少しきつめのコースを横断する形で道は続いていた。
コース横のリフトも錆びのない、グレーのすこし新しいペアリフトに変わっていた。
 
 

 
僕らは本来ならスキーコースのど真ん中に当たる部分にバイクを停めた。
ここが雪に覆われた様子を想像し、ふたつの景色を頭の中でオーバーラップさせてみた。
 
 
 
 つづく
 
 
 
 
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