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標高1000mの風 その2

日差しをさえぎることのできる無料休憩所で、 しばらく火照った体を休めていた。
僕らは走行中はほとんど会話はしない。
共通の友人からライダー用簡易通話装置を勧められたことが一度あ った。
しかし、面倒な装置に頼って走りながら会話を楽しむ、 ということ自体に僕ら二人は抵抗を感じた。
最低限に必要なことは信号待ちのときにヘルメットのシールドを開 けて話す。
大きな音量のするマフラーに換装している僕らのオートバイは、
アイドリングとはいえ、ずしりと響くしっかりとした音量をもち、 シールド越しでは聞き取れないことが多い。
とくに僕のシールドはイエローのミラータイプに換えてあるため、
外からは反射して顔の表情は読み取りにくいはずだった。
シールドを開けて視線を合わせれば、 全てを聞き取れなくても互いの考えは理解できた。
たとえ信号が無く止まる機会がなくても、 左手で合図をすればなんとか意思は通じた。
通話装置に頼らずとも、それで用はだいたい足りた。
「走っているときまで、おしゃべりしなくてもね。」
「僕もそう思いますね。オートバイってそんなものですから。」
結局、4年間、このスタイルで特に不便も感じなかった。
道の駅の日陰でゆっくりと喉を潤しながら、 この2時間に感じたことを話した。
太陽はまだその軌道の最も高くなる地点に届いてはいなかった。
よって暑さによる不快さも、まだなんとか忍耐の限界を超えるほどではなかった。
わずかだが標高が高い内陸部を走っていることも救いになっていた 。
しかし、ここから日差しはさらに強まるだろう。
まぶしい太陽によってつくられた、 あまりにくっきりとした自分の影を踏みしめながら、
1340ccの空冷エンジンを積むオートバイにまたがった。
軽自動車2台分の排気量をもつ空冷エンジンが生み出す熱量と、
それを大気に放出した際に現れる熱風は、 太陽光線によって熱せられる体をさらに痛めつけるだろう。
まだまだ続く暑さとの戦いに覚悟を決めてシートにまたがった。
日なたで充分に太陽光線を吸い込んだ、黒い本革レザー製のシートは驚く ほど熱かった。
道の駅の駐車場からゆっくりと国道175号へ出て、 北上を続けた。
この道は水分れ街道という名称がついていた。
交通量もぐっと少なくなり、再び線路が道のすぐ横を走っていた。
時折、線路と交差する道路につくられた踏切を眺めると、
鉄製のわだちは4本から、いつのまにか2本の単線に変わっていた。
澄みきった空気によって、 遠くには山並みがくっきり浮かび上がり、
山のふもとから青々とした稲を満たした水田が手前まで続いている 。
その風景を一直線に延びる2本の線路が上下にバランスよく区切っている。
線路と僕らが走る道路との距離は場所によって縮まったかと思えば、 ゆっくりと開いていったりしている。
そのたびに空と山並みと水田と、 それを分かつ線路によって構成された構図は、微妙にそのバランスを変えていく。
そんな風景画のような景色を精一杯に記憶しようとしながら特に急ぐわけでもなく、快適な速度で 走り続けていた。
175号は国道9号と交差する。
このまま日本海までいくつもカーヴしながらも北へ向かう175号 を離れ、ここからは9号で西へ走る。
それまでまだ遠くに見えていた山々の稜線は、少しずつ道路との距離をつめ、 間隔も狭まっていく。
平地部分が少なくなり水田の青さよりも木々の輝きが視界を占める割合を増して いく。
そういえばこのあたりで以前、「卵かけご飯」 で有名な店に行った記憶がある。
その記憶を思い出すと、とたんに腹の虫が鳴りだした。
信号待ちで声を掛けてみた。
「前に行った卵かけご飯、この近くでしたっけ?」
「近くだと思いますけど、この道でしたか?」
信号が変わった。
景色よりも今は卵かけご飯に集中していた。
和田山付近まで来た。そろそろ次の休憩と、その姿に 見覚えのある道の駅に、片手でサインを出して進入路へ進んだ。
太陽は上昇軌道から下降軌道へ針路を移したところだった。
時間帯としては今が一日のうちでもっとも日差しが強い。
今度はクーラーの効いた喫茶室でソフトクリームを片手に地図を見 た。
二人ともバニラと白桃のミックスを選んでいた。
選べるのはバニラか白桃か、そのミックスだった。なぜ白桃なのかはわからない。
「ああ、この手前を北へ行けば卵かけご飯でしたね」
「また、今度食べましょう」
いつ実現できる約束かはわからないが、 いつかきっとまた行くこともあるだろう。
地図を見ているうちにソフトクリームはどんどんと溶け出すスピードをあげていき、
ゆっくりと舐めているだけでは間に合わなくなっていった。
 
 
つづく
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