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標高1000mの風

いつもよりも少し早く、約束の時間の30分前に僕はオートバイを滑り込ませた。
新御堂筋南向き車線にある、終夜営業のファーストフード店。
この店の駐車場のやや奥、僕らがいつもオートバイを停める場所に、彼のオートバイは無人のまま存在していた。
四角い車一台分のスペースに、オートバイをもう1台分の居場所をあけるべく、片側に寄せられて停められている。
エボリューションエンジンを積んだ、ハーレー・ダビッドソン ローライダー。
赤いタンクが特徴的で、エイプハンガーにハンドルバーが変更されているその姿はすぐに持ち主が判別できた。
店に入り、朝から満面に笑みを浮かべた店員から、アイスコーヒーとモーニングセットが載ったトレーを受け取り、
彼がすでに食事をすすめているテーブルへ向かった。
「早いですね」
「朝から暑かったですからね、早く来ました」
彼は僕と13歳離れている。彼の方が先輩だ。
しかし、誰に対しても紳士的なふるまいをする彼は、僕に対してもいつも穏やかに敬語をつかう。
僕の方はというと敬語半分、ときに親しみを込めて敬語をあえてつかわず話しかける。
「今日のコースはね、高速は使わずに国道を走ろうと思う。」
「いいですね、国道をトコトコと走りましょう。」
彼はいつもトコトコと表現する。
でも決して遅い意味でのトコトコではない。
僕も彼も普段、結構飛ばしている。
それでいていつも「トコトコ走る」という。
二人で地図を挟んで眺めながら、本日の作戦会議を始めた。
「コースはね、ここから北へ、そしてこちらへ、このあたりでランチにしようかな。
目的地には暗くなる前には着きたいですね。ちょっと忙しいかな」
「いいコースですね。行きましょう。多分暗くなる前には着けるでしょう」
軽めのブレイクファーストを済ませた後も、しばらくお互いの近況報告を交えて今日のコースについて話した。
ほどよく胃の中が落ち着いたころ、いつものように僕が先頭を走り彼が後について店を出た。
こうして一緒に走ってもう4年ほどになるだろうか。
ペースは1~2ヶ月に1度程度。時には3、4か月、共に走らないこともある。
しかし、お互いに好きなツーリングコースや、オートバイに求めるものに共通する部分が多いと感じるのか、
こうして時々、どちらともなく互いにツーリングに誘いながら走り続けている。
そして少なくとも僕は、いつも走り終えた後で楽しかったと感じている。
今日もきっと満足のいく走行が楽しめるだろう。
そんな確証もない期待を薄ぼんやりと感じながら、イメージしたコースを順番に走り続けた。
新御堂筋からは中国道沿いに西へ走り出した。
宝塚の周辺に差し掛かった。国道を通ってこの街へ来るのは久しぶりだった。
どこがどう変わったのかは記憶にないが、何か以前とは違う感覚がする。
何かが新しくなっている。どの街もそうだが昔のままの姿をとどめ続けることは難しい。
街は生きている。そんなしゃれたセリフを思い浮かべながら山間部へ抜けた。道は国道176号に変わった。
しばらくは中国道を布に縫い物でもするように何度も交差を繰り返しながら西へ進んだ。
ほどよくカーブした道は、オートバイとそれに乗るライダーにとって心地よい刺激を与えてくれる。
車はそれほど多くはなく信号も少なく走りやすい。
普段は高速に乗って一瞬で過ぎ去ってしまう空気と大地の姿を、ゆっくりと記憶に焼付けることができる。
まぶしい太陽を浴びて一気に成長した、あたり一面の稲が、風を受けて照りつける光を反射しながら輝いている。
何度も見覚えある夏の当たり前の光景なのだが、見飽きるということはない。美しかった。
三田までくると高速と少し距離が離れた。かわりに線路が国道の近くを走っている。
ずっと左手に線路を眺めながら、列車が来たら絵になるだろうな、と考え続けていた。
どこか線路の付近でオートバイを停めて写真を撮ったらどうだろう。
稲穂と線路とオートバイと・・・あと必要なものは何だろう。
川?列車?大きな木?などと考えながら走ることはとても楽しい時間だった。
ふたたび高速が近づいてきた。舞鶴若狭自動車道。
高速をくぐり線路を超えると、今度はどちらもが右手に見える。
丹波篠山を通過すると線路と並行しながら走る楽しみはここまで、線路はゆるやかなカーブを描きながら道から離れていった。
柏原からは175号を選んだ。一度大きく東へカーブし高速の春日インターチェンジに近づいた。
道の駅が視界に入るとウィンカーを点滅させながらゆっくりと駐車場へ進んだ。彼のオートバイが後から続いた。
ここまでおよそ2時間。高速を使った場合の2倍以上の時間がかかっている。
ペットボトル入りのスポーツドリンクの冷たさが乾いた喉に刺さるような刺激を与えてくれた。
 

 
つづく
 
 
 
 
 
 
 
 
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コメント

No title

見よう見まねで、自分も、ブログはじめて見ました(〃⌒ー⌒〃)ゞ。これからも宜しくお願いします。

No title

ミネさん、メッセージありがとうございます。
今後の日記を拝見させていただくことにします。
よろしくお願いします。

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