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2017/10/01 温泉師匠との旅 その4

2017/10/01
さわやかな光から一日が始まった。



奥のハーレーの横で、温泉師匠が支度を整えている。
温泉師匠はコンマ1mmも残さずに頭髪をそり上げている。
無いのではない、あえての剃毛だ。
もしも、髪に一切の手を加えずにほったらかしにしておけば、
とんでもなくボーボーになるはず、と私は信じている。
髪を剃っている理由のすべてが温泉にある。
湯のぬくもり、肌触り、香り、酸味、柔らかさ、かたさ、
それらを全身で感じるために、頭を丸めているのだった。
さらにそうしておけば、一つの温泉を出た後、
髪を乾かさずとも、すぐに次の目的地に向かえる。
プロ中のプロ、師匠は温泉のプロフェッショナルだったのだ。
徐々に抜けていく毛髪を、未練がましく眺めるような私は、
師匠の足元にも及ばない。
まだまだ、温泉の道は険しく、ゴールは遠い。

師匠はこの時間でさえ、頭部は朝の光を受けて輝いている。
きっと弟子の私には見えないように、早くから剃り上げていたのであろう。
師匠は日々、努力は惜しまれない。

さあ、その師匠との旅は続く。
今日は能登を少しだけ回ってみよう。



途中で一息ついた。
海をバックに1枚、撮影したかった。
昨日もたくさん撮ったはずだった。
しかし、海はまた別の表情を見せている。
一日一日が新しい。



一瞬だけ視界の片隅に、たくさんのオートバイが店先に止まっているのが見えた。
きっと、地元のライダーたちに評判の店に違いない。
バイクを止めてダメ元で覗いてみると、果たして期待通りの店だった。
いろいろな定食がある中で、刺身・焼き魚定食を頼んでみた。
このセットに絶賛焼き上げ中のサンマがついてくる。
ボリューム満点で大満足な定食だった。

このとき、師匠は浮かない顔つきで、携帯が行方不明であることを伝えてきた。
食事を止めて、師匠の携帯を鳴らしてみる。
呼び出し音が私の携帯からは聞こえる。
しかし、師匠の携帯の着信音は聞こえない。
ポケットにもバッグにも携帯はない。
オートバイに積まれた荷物からも音沙汰はない。
「これでは食事の味もわからないでしょうね」
師匠はうなずきながら
「そうですね。味わう気になれませんね。」
「あ、でもこのお刺身はおいしい」
さすが師匠は冷静である。
「食事が終わったら、一緒に探しに戻りましょう。きっとありますよ。
僕が先にゆっくり走りますから、反対車線を探しましょう」
食事を終えた後、2台のバイクはゆっくりと進行方向を変えた。
車の邪魔にならない程度のスピードで、私は道路を見つめながら走った。
10分ほど走ったあとだろうか、ミラーを見ると師匠が見当たらない。
振り向いても全く見えない。
あ、きっとずいぶん前に止まったのだろう。
見つかったのだろうか?
少し戻ると師匠が見えた。
師匠は、はにかみながら「見つかりましたよ」とほほ笑んだ。
しかし、その手に握られた携帯は、蜘蛛の巣が張られたように、幾筋ものヒビ割れが走っていた。
「ああ、残念でしたね、でも見つかって良かった」
「本当ですね、良かった。」
さあ、旅を続けよう。
少し時間をロスした。わずかなロスだが、道程を変えよう。

「ここからは南に行きましょう」
次の目的地を目指すことにした。



向かったのは東尋坊だった。
なかなかの迫力だった。



温泉師匠も恐る恐る、下を眺める。
私はきりりと剃り上げられた後頭部を眺める。
素晴らしい剃り味だ。
どれほどシャープな刃物を使っているのだろうか?
少し気になった。



これ以上は近づくことはできない。
押すなよ、押すなよ、絶対に押すなよ~~~
心の中で繰り返す。
しかし、この呪文の先は・・・・

「さあ、ぼちぼち行きましょうか。
おそらく帰路は真っ暗になるでしょうから。」
再び2台のオートバイは南へ向かって走り出した。
東尋坊から越前海岸をひたすら南下した。
あたりが薄っすらと暗くなりかけてきた。
その時、一枚の道路標識が目に入った。
「遅くなりついでに、あそこに寄って行きましょうか」
「いいですねぇ、汗を流して疲れを取っていきましょう。」
標識にはこの先に温泉があることが示されていた。



標識があった割には、たいそうこじんまりとした店構えである。
もしかして、間違っていないか?
しばらく考えたが、師匠が言った。
「ここでいいでしょう。」
断る理由は一つもない。私から誘ったことだ。
「では、参りましょう」
中に入ると、さらにこじんまりとしている。
わびさびが効いている。
そして、湯につかってみた。



なかなかいい。
というより、かなりいい。
なるほど、この素晴らしい味わいを導くために、
この湯につかるまでは、あえてわびさびを効かせていたのか、
深い。
勉強不足であった。

露天風呂を出ると、すでにあたりは暗闇に包まれていた。
温泉師匠は髪を乾かす必要もない。
いつでも走り出せる。
この温泉を出て数キロ走ると、大きな温泉施設が何軒かあった。
先の標識はこれらを指していたのであろうか、
いや、我々が入った温泉で十分だ。
間違いない。

東尋坊から越前海岸、そして敦賀、琵琶湖
すべて一般道を走り続けた。
途中、一つだけ見つけた店でカレーを食べた。



気が付けば腹ペコだった。
そして、山盛りのカレーを食べた。
旅は終わった。
また師匠と一緒に走りたい。





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